Se connecter翌日の早朝。 王都アランクルスは人々の活気に満ちていた。そびえ立つ王城を中心として、赤い屋根の家々が円形状に広がっている。地面は綺麗な石畳であり、水路もあった。水路は真っ直ぐに港の方へと注いでいる。馬車や牛車が行き交っていた。プレイヤーたちが石畳に絨毯を広げており、露店を開いている光景もあった。武器や服、バフ料理や回復アイテム、素材アイテムなどを売っているようだ。こんな朝早くからご苦労なことである。以前にトウマが言っていたことをウミは思い出していた。プレイヤーたちには、ゲームのヴァルを円に換金して生計を立てている者も多いらしい。商人は、人が通りかかるたびに「いらっしゃいませ」「便利なアイテムはいかがですか?」などと声を張っている。(綺麗な石ころも売っているのでしょうか?) 露店を覗きたい気持ちが、ウミの心の中でうずうずと高まる。(絶対に後で見に行くです) ウミとアイギス、キャルル丸は喫茶店リヴァにいた。甘いコーヒーを飲みながら、ステータス画面を操作している。キャルル丸は桶に入った甘いミルクを飲んでいた。 配信はしていない。 テーブルの椅子に座りながら、ウミが話しかける。「アイちゃん、わ、わわ、ワールドチャットをやってみるですぅ」「うん」「ワールドチャットって、私、初めてですぅ」「大丈夫」「きゃるるぅ」 昨夜、みんながログアウトした後でウミは四枚の絵を描いた。武器制作のミニゲームである。だけど三枚は大失敗した。デッサンアイディアは乗り物武器しか無いため、出来上がったのはスカーレットクローが一つと錆びた牙が三つである。SランクとEランクだ。スカーレットクローをワールドチャットで売れば、大金を入手できるはずである。 ウミが聞いた。「だけどアイちゃん、いくらにしましょう?」「200万ヴァル以上で売れると思う」「そ、そんなにしますかね?」「うん。もっと上げてもいいかも」「……じゃ、じゃあ、に、220万ヴァルにしましょうか?」「
アパートに帰宅して、部屋で真帆たちはくつろいでいた。 すでに夕食を終えている。お風呂も済ませた。 ピンク色の部屋だった。カーペットもカーテンも、布団カバーまでピンク色である。それは真帆のお気に入りのカラーだった。最近はじっとりとしていて暑い。なので、冷房をつけていた。真帆とユウマはテレビを見ることもせずに、二人の時間を楽しんでいる。いま、ユウマが真帆にマッサージをしてくれていた。足の裏を両手で握り、優しく揉み込む。時々、つぼを強めに押した。痛気持ち良くて、真帆は声を上げる。「いたたたっ」「ここはどうだ?」「ちょっとユウマ、きついわ」「足の裏が凝っているな。だいぶお疲れのようだ」「もうちょっと、手加減しなさい」「こっちはどうだ?」「もう、ダメよユウマ」「足が温かくなってきたな」 ユウマがにんまりと笑顔を浮かべる。 真帆はちょっと開放的な気分で足を揉まれ続けた。この後はいつも通り、二人で愛を育む。だけど今日のユウマはマッサージが長い。この男、最近は揉むのが上手になってきた。毎日マッサージをしてくれているせいだ。 ふと、枕元で真帆のスマホが鳴った。「ごめん、ユウマ、電話だわ」「そうか」 ユウマが真帆の足を離す。 スマホを手に取ると、母親からだった。真帆は緊張でお腹が痛くなる。せっかくの二人きりの時間だったのに、またあの話だろうか? マットレスに腰掛けて電話に出た。スマホを耳に当てる。「もしもし、お母さん?」「真帆か。ごめんね、何度もかけて」「うん、大丈夫」「真帆、朝の話の繰り返しなんだけれどね」「うん」「今日のお昼も、高梨さんの家から電話があって、賠償金の支払いを催促されたんだわ。それでね、お父さん、自分の友達を片っ端から当たって、お金を貸してくれないか頼み込んだんだ」「うん、それで?」「なんとか50万円を貸してくれるって人が現われたけれど、それだけでね。
夕食後の露天風呂。 いま、晴恋とニキで混浴温泉に入っている。 身体には白いバスタオルを巻いていた。入浴用タオルであり、マナー違反ではない。すでに身体と髪は洗ってある。お湯の中に身を沈めながら、晴恋はどぎまぎとしていた。魔導具の灯りに照らされて、水面はキラキラと輝いていた。お湯は少しぬるくて、いつまででも入っていられそうだ。肌当たりが柔らかいお湯である。 他に客はいない。 夜空に浮かんでいる三日月だけが、二人のいちゃいちゃを覗き見ていた。(何だか、大胆な気分になっちゃいます) 晴恋の隣では、ニキがおちょこで日本酒を飲んでいる。湯舟酒のおぼんが水面にぷかぷかと浮かんでいた。晴恋はおしゃくをしていた。 ニキが赤ら顔でつぶやく。「晴恋は可愛いさ」「くぷぷ……どのぐらい可愛いですか?」「ベルさんよりも可愛いさ」「本当ですか?」 胸がドキりと高鳴る。 とびきりに嬉しかった。「本当だよ。ギルドでナンバーワンさ」「それは言い過ぎです」「言い過ぎじゃないって。ウミちゃんよりも、アイよりも、キャルル丸よりも可愛いさ」「くぷぷ、キャルル丸と比べるんですか?」「世界で一番可愛いってこと」「もう、ニキさんったら」 晴恋はニキにお酌をする。 ニキがおちょこを差し出した。「晴恋も飲みなよ」「飲みましょうか?」 晴恋はおちょこをそっと掴み、すするように飲んだ。おちょこを置く。「今日は倒れるまで飲むさ」「倒れたらダメです」「どうしてだい?」「どうしてって。それは、これから、部屋で……」 ニキは気づいたようで、口角をにんまりとつり上げた。 晴恋は恥ずかしくなって右手を上げる。水面がちゃぷんと音を立てた。「もう、ニキさんのいじわる!」
遊園地の出口付近では福引きが行われていた。 抽選器がガラガラと音を立てて回っている。 スタンプラリーのスタンプ一つにつき一回回せるようだった。 遠くには大きな観覧車があった。ゆっくりゆっくりと動いている。海賊船のスイングは未だに続いている。先ほどまでの楽しさを思い出して、晴恋は少し寂しい気持ちになる。日が完全に落ちて夜が訪れている。夜風が吹いて、スカートの裾がはらりと揺れた。だけど七月の夜の空気は温かい。夜空では星々が語り合うように瞬いている。夏の大三角形を探してみた。その際、晴恋は流れ星を見てしまった。消えてしまった後で祈りを込める。ギルドのみんなが幸せになれますように。王城争奪戦で勝利できますように。 今、ニキが抽選器を回していた。 ガラガラと鳴っている。 ぽんと白い玉が吐き出された。「また白さあ」 白い玉は五等賞であり、ポーション一個である。すでにニキは四つのポーションを入手していた。 先ほど晴恋も回してみたが、玉の色は全て白だった。 福引きなんてこんなものである。 晴恋が口角を上げて笑った。「くぷぷ、ニキさん。五等賞ですね」「本当だよ。この抽選器、当たり入ってるのかなあ」「さあ、どうでしょう」「ちくしょー。まあ仕方無いさ」「プレイヤー様、こちらをどうぞ」 福引きスタッフがポーションの小瓶を差し出す。ニキは受け取った。 後ろに並んでいたベルフラウが声をかけた。「ニキさん、代わって。次はあたしよ」「おう。ベルさん、一等賞を引くさ」「ふふん、任せなさい」 福引きを引けるのはベルフラウで最後だった。今のところ全員が白い玉である。 ベルフラウとニキが場所を入れ替える。だけど、ベルフラウはアトラクションを回っていない。スタンプは美術館のものだけのようだ。引ける回数は一回である。 彼女が福引きスタッフにスタンプラリーの紙を見せる。「回して良いかしら」「はい
遊園地のレストラン前の石畳だった。 太陽は西に大きく傾いており、夕焼けとなっている。オレンジ色に染まっている雲が美しかった。辺りにはプレイヤーたちの人垣が出来ている。これから始まる決闘を、固唾をのんで見守っていた。酔っ払った男性が「頑張れよ! 犬のちびっ子」と声をかけている。アイギスの尻尾が不機嫌そうに跳ねた。黒い大盾を前に突き出すように構えており、顔つきは真剣そのものである。 アイギスの相手はアーティンでは無く、同伴者のリゼットだった。白い仮面が何とも気味が悪い。右手にはダガーを握っている。ベルフラウと同じジョブだろうか?(勝たないと) アイギスは唇を引き結んで相手を睨みつける。 リゼットがステータス画面からフレンド申請を送った。「アイギス。貴方、使い魔なの?」「そうだけど?」「これは舐められたものね」「どういう意味?」「使い魔なんて、AIじゃない。AIが人間様に楯突いちゃダメよ」「お前、ムカつく」 アイギスがフレンド申請を承認する。 リゼットが決闘を申し込んだ。 ドンと音がした。 ――決闘クエスト、初めての決闘に勝利する 決闘は一分間である。 リゼットが走り出した。「アイギス、私がスマートな勝ち方ってものを教えてあげるわ」「お前に教えられることなんてない!」 アイギスが黒い大盾に隠れる。 リゼットが笑うように唱えた。「スティール」 瞬間、アイギスの右手から大盾が消えた。と思ったら大盾はリゼットの左手に握られている。盗むスキルのようだ。 観客たちがどっと歓声を上げる。(嘘!) アイギスは驚愕に下唇をひきつらせた。「ひ、卑怯者!」「あら、この大きな盾、格好良いわね。だけど要らないわ」 リゼットが大盾を後ろの地面に投げる。がらんと大きな音が鳴った。 少し離れたところからウミが応
「みんな、どうする?」 トウマが聞いた。 遊園地のレストランだった。白い丸テーブルに黄色い椅子が並んでいる。空の景色が親しみやすい絵柄で描かれた天井の下で、トウマたちは難しい顔をしていた。午後の四時半を過ぎており、店内は少し混んできていた。店の前にはカラフルな衣装を着たNPCのピエロが登場をして、玉乗りをしながらナイフのお手玉を始めている。愉快な光景だった。どうやら客寄せのようだ。 ウミが首を振って答えた。「ご主人様、同盟は難しいかと思いますぅ。同盟を組んだら、報酬を分けなければいけません。師匠に貸せるお金が、少なくなっちゃいますぅ」「俺っちもそう思うさ。相手のメンバーは11人だろ? 報酬が半分以下になるさ」 ニキがジンジャエールのコップを掴んでひとくち口に含んだ。「僕もそう思う」とアイギス。「私も同感です」と晴恋。「きゃるる?」 キャルル丸はのんきに顔を手でかいている。 ベルフラウだけは深刻そうに俯いていた。ゆっくりと面を上げる。「待ってみんな。同盟を組めば、勝率が上がるわ」「師匠、私たちだけでも勝てますよぉ」 ウミが眉を寄せる。「……そうかしら? 簡単なことじゃ無いと思うけれど」「ふむ」 トウマは腕組みをしてうなった。(俺も反対なんだよな) 時間はそれほど残されていない。 王城争奪戦は五日後である。 トウマが口を開く。「みんな、俺はこう思う」 メンバーは黙ったまま聞いていた。 トウマが低い声で紡ぐ。「出会ったばかりの人間たちの集まりで、連携が上手く取れるとは思えない。作戦を立てたとしても、作戦が内側から崩れることもあり得る。人数の足し算だけで、勝率が上がると考えるのは危険だ」「……それは、確かにね」 ベルフラウが弱ったように言って、顔を曇らせた。 ウミが疑問を向けた。「ご主人様、どういうことですか? もっと簡単に言って欲しいですぅ」「……アーティンさんたちと同盟を組んだとしても、相手が作戦通りに動いてくれる訳ではないということだ」「そうなんですか?」「ウミ、出会ったばかりの人の指示をどこまで信じられる?」「そ、それは、ちょっと分からないですぅ」「相手だって同じだ……これは用心してかかった方がいいだろうな。不安要素が多い。それに、王城争奪戦の作戦はもう考えてある。だから、俺の意見とし
ゴーレムを倒し終えると、ノーファンの村へと二人は転移した。 辺りには木造りの民家が立ち並んでいる。遠くを見ると森や山があった。地面は土。その道路で、トウマとウミは隣り合って佇んでいた。 「普通の村だな」「そのようですね」「とりあえず、狩り場に行くついでに、村を見て回ってみるか」「はぁい!」 二人で並んで歩き出す。 すぐに他プレイヤーの姿があった。 横切っていく通行人。その顔色は明らかに沈んでいた。他にも座り込んでいる女性がいた。壁にもたれかかっている男。空を見上げている魔法使いふう。誰もが死んだ魚のような目をしている。 異変に気づいたウミが声をひそめてつぶやく。不安に揺れ
ロッジのような一室。木造りの天井と丸太で出来た壁。そこのベッドにユウマは腰掛けていた。 ここがゲームの中らしい。 顔の前にはステータス画面のような半透明の青いボードが浮かんでいる。 システム音声が響いた。 「プレイヤー様。VALORIUMオンラインの世界へようこそ!」 「あ、はい」 「まず、プレイヤー名を決めてください」 「トウマで頼む」 彼の本名は冬野悠馬である。 「トウマ、その名前は使用できます」 「良かった」 「次にゲーム内職業を選んでください」 画面には様々な種類のジョブが並んだ。 そして右上には特別コード入力の文字。そこをタップして、暗記し
ログネストの玄関は広い空間になっている。背の高い天井。タイル敷きの綺麗な床。 しかし、空気は息苦しいほど重かった。 今も、通路からドリンクを汲みに来た利用客がある。ちらりと振り返ると、寝ていないような疲れた顔をしていた。 ふと隣には男性店員に連れられた太り気味の客がやってきた。太り気味の客は男性店員に頭を下げて大声を出す。 「待ってください! あと五時間、五時間プレイできれば、ヴァルを払えそうなんです!」「お客様、すでに退室の時間でございます」 (……ヴァル?) 背中に鳥肌が立つのを感じながらユウマはカウンターに向き直る。 茶色い受付台を挟んで、ユウマの前には女性店員が立って
それは、どこにでもある小さな“シアワセ”だった。 朝。寝息を立てているユウマの肩に、妻が優しく手を置く。 「ユウマ、起きて起きて」「むにゃむにゃ、もっと寝てたい」「駄目。会社に行く時間よ」「ぐぐー、ん、朝?」 瞳を開く。目の前には妻の優しい笑顔があった。ユウマはダブルベッドから上半身を起こし、右手を口元に掲げて大あくびをする。 「ふわあ」「あら、大きなあくびですこと」「朝食は?」「出来ています。着替えて、ダイニングへ来てくださいな」「ああ、分かった」 クスッと笑って妻が部屋を出て行く。スリッパの足音が遠ざかって行った。 ユウマはベッドから出て支度をする。ワイシャ







